雨上がりの五月晴れ、琵琶湖湖畔でおもうこと
社会福祉学を学ぶみなさん。こんにちは。5月22日の本日。なんと「ほじょけんの日」とありまして、まさにこの日。ご注目くださいね(だれですか。デイサービスで使いにくいとの弁はNGで)。
で、前向きになれないなぁ、と在阪人気球団を揶揄するようなフレーズをアップしたならば、勝ち始めて?関西の熱狂的な応援の方々にはお叱りをうけそうで・・・態度が悪くてごめんなさいね(@内田樹、現:神戸女学院理事長)。そんなこんなで雨上がり、晴れ渡る空の下、湖畔でぽつねんとすわっている社会福祉科係です・・・
さて、今日は、もうひとつエポックな日でして、明治4年(1871年)の本日、戸籍法が発布されたのです。ということは、我が校の本体である介護福祉科に多数在籍されている留学生諸君を思い出すところです。5月現在、多くの新入生が在留カードの書き換えなどで戸籍関係の書類作成に、スタッフみな忙殺されている毎日でして・・・(社会福祉科の業務はどうなんているのか、めをつりあげないでくださいね)
在留資格だの、住所地をつけるだのと、なかなかにトリビアルな行政書士的業務は、社会福祉士教育にたずさわる者としてもリカレント教育に資するものですよ。みなさんも、住所地のない人が(搬送の後)入院されてこられて、住所地をつけないと生活保護受給できないところでして、とか、市長後見で介護保険請求かけるとか、そうですよね、けっこうな戸籍がらみのワーカー業務あるぢゃあないですか???(おわかりにならないかたは、ぜひ夏のスクーリングでどうぞお問い合わせくださいね)
話はもとに戻りますが、それにしてもこれだけ留学生ビジネスと化した専門学校業界を俯瞰するに、-先日の京都市にある日本語学校で校内ガイダンスにでかけまして、旧知のなかの京都にある某学校の広報マンとの会話で思いついたことがひとつ。件の専門学校は外国人留学生ではなく、集客を日本人高校生に絞って、魅力的な広報を展開するチャレンジングな学校として関西ではよく知られたところでした。そのキャンパスは伏見稲荷さんにほど近く、学生諸君との演習ではかなりの頻度で、「障害のある利用者さんたちを遠足につれていくという支援員ならば」というお題で、遠足の手引きをつくり、できあがって手引きをもとに、受講生諸君と実地検証をするという教育には、魅力的なロケーションでして、今でも個人的にはよい思い出と好感をもつキャンパスのひとつ(もちろん内田先生の岡田山のそれが最上ですが)です。思い出にひたりつつ、この5月22日という日にちなみ、福祉の実践に不可欠なあることについて考えてみましょう。
多国籍化する現場という「教室」
先ほど、戸籍法の話をしましたね。1871年、近代国家の礎として国民を「家」の単位で把握し、日本人としての枠組みを規定したのが戸籍です。それから150年以上の時を経た令和のいま、日本の福祉現場はその「枠組み」を大きく越境し始めています。皆さんご存知の通り、現在の介護の現場は、EPA(経済連携協定)や育成就労、特定技能、そして留学生など、様々な在留資格を持つ多国籍なスタッフによって支えられています。
現場に入職して3年未満の若手ワーカーの皆さんや、これから社会へ羽ばたく4年生の皆さんは、実習先や就職先で、アジア圏をはじめとする海外からのスタッフが元気に、そして献身的に働く姿をすでに目にしているはずです。かつて「日本の高齢者は、同じ文化と言葉を共有する日本人によってケアされるのが最善である」という固定観念が根強かった時代がありました。先述した、あえて留学生をとらないことでブランディングを図った専門学校のケースも、そうしたドメスティックな社会的ニーズの裏返しだったと言えます。
しかし、令和の現実はどうでしょうか。多国籍な人材が現場に入ったことで、実は日本の介護現場には素晴らしい化学反応が起きています。
例えば、彼ら彼女らの多くが文化的な背景として持っている「年長者を深く敬う」という精神。認知症を患い、時にコミュニケーションが難しいお年寄りに対しても、国境を越えてやってきたスタッフたちは、驚くほどピュアな笑顔と根気強い優しさで接しています。そこに「業務としての介護」を超えた、人と人との根源的な温かさを見出し、ハッとさせられた経験を持つ先輩ワーカーは決して少なくないのです。
一方で、多国籍なチームで働くことは、これからの時代を担う皆さんに新しいスキルの獲得を要求します。それは「言語化する力」です。「阿吽の呼吸」や「以心伝心」「背中を見て盗め」といった、日本特有の「ハイコンテクスト」なコミュニケーションは現場ではもう通用しません。なぜこの介護・介助のプロセスが必要なのか、なぜ利用者のその些細な発言を傾聴しなければならないのか。専門職としての根拠(エビデンス)と倫理を、文化や言語の壁を越えて、わかりやすい言葉で論理的に伝え合う必要があります。
実はこれ、ソーシャルワークにおける「他者理解」と「アドボカシ―(権利擁護)」の最高のトレーニングなのです。自分とは全く異なるバックグラウンドを持つ同僚と向き合い、対話を重ねて協働の土台を築くプロセスは、多様な価値観を持つ利用者やその家族の生活をデザインする相談援助のプロセスと、本質的に何ら変わりません。
枠組みを越えた「ケアの共同体」へ
今日、5月22日という日にちなんで、皆さんに考えていただきたい「福祉の実践に不可欠なもの」。
それは、自分の中にある「当たり前」という枠組みを外し、多様な他者を面白がりながら受け入れる『寛容さ』と、それを日々の実践に落とし込む『対話力』です。
これからの日本の福祉は、国籍や言語、のような枠組みにとらわれない、新しい「ケアの共同体」を創り上げる時代に入ります。在留資格の更新や生活保護の申請といった複雑な制度の狭間で困窮する外国籍の人たちを支援するのも、我々ソーシャルワーカーの重要な使命となっていくでしょう。あの煩雑な行政手続きも、決して無味乾燥な事務作業ではなく、彼らがこの国で安心して暮らし、尊厳を保つための立派なソーシャルワーク実践なのです。
皆さんがこれから飛び込む、あるいはすでにもがいている多国籍な現場は、単なる「人手不足の穴埋め」の場などでは決してありません。国境や文化を越えて「人が人をケアする」という普遍的な価値を再構築する、最前線のフロンティアです。時に言葉の壁にぶつかり、文化の違いから生じる摩擦に悩むこともあるでしょう。しかし、その葛藤こそが、皆さんを新しい時代の福祉専門職へと育ててくれるはずです。
雨上がり、湖畔の空気がすっきりと澄み渡っています。この広がる空が世界へと繋がっているように、皆さんの目の前の現場もまた、世界と、そして豊かな未来へと繋がっています。多様な仲間たちと共に、どうか前を向いて、新しいケアのあり方を力強く切り拓いていってください。心より応援しています。
参考図書 内田樹(2006) 『態度が悪くてすみません ―内なる「他者」との出会い』 角川書店